「血糖値が高いのはよくないけど、低い分には大丈夫ですよね?」ーー診察で患者さんからよく聞かれる言葉です。確かに、糖尿病の治療では「血糖値を下げる」ことを目標にするため、下がる分には問題ないと感じる方もいるかもしれません。しかし、実は血糖値が下がりすぎる「低血糖」も、危険な状態になり得るものです。

低血糖になると、強い空腹感や冷や汗、手のふるえ、動悸などの症状が出ます。さらに進むと、意識がもうろうとしたり、けいれんを起こしたりと、命に関わることもあります。特に夜間の低血糖は、眠っている間に気づかないまま重症化することがあるため注意が必要です。

また、我々が行った研究では、低血糖は酸化ストレスを引き起こし、網膜症や腎症などの糖尿病合併症を悪化させるリスクがあることがわかってきました。さらに、低血糖を繰り返すことで認知症の進行を早める危険性も指摘されています。つまり「血糖値が低ければ低いほど良い」というわけではなく、一定の範囲内で安定させることが大切です。1〜2か月間の血糖値の平均値が反映されるHbA1cの値が同じ場合、高血糖と低血糖を繰り返して得られた数値よりも、血糖値が安定した状態で得られた数値の方が「質の良いコントロール」とされています。

低血糖が起きてしまったときは、すぐに糖分を補給することが大切です。ブドウ糖を5〜10g、もしくは砂糖入りの飲み物をコップ半分程度とるのが目安です。チョコレートのように脂質が多いものは吸収が遅く、緊急時には向きません。症状が改善したあとも再び下がることがあるため、軽食を追加すると安心です。

「血糖値が低い分には大丈夫」という考えは、糖尿病患者さんの多くがもっているものかもしれません。しかし、血糖値は高すぎても低すぎても、体に悪影響を及ぼします。低血糖を繰り返さないために、食事は3食きっちり食べる、薬を正しく飲む、無理な運動を避けるといった日常の工夫が必要です。不安な症状があるときは、必ず主治医に相談しましょう。血糖値を上げすぎないことと同じくらい、下げすぎないことも大切にしてくださいね。